LOGIN帰り道、快はいつもの電車に乗っていた。
車内は少し混んでいる。 快はつり革につかまりながら電車に揺られていた。顔は俯いている。 「ぁ……」 その時電車がガタンと揺れて向かいに座っていた若い女性の足を踏んでしまった。 「痛……」 「あ、すみません……わっ」 慌てて後ずさると今度は後ろに立っていた男性の背中にぶつかってしまう。 ジロジロ…… 冷たい視線が集まって来る。 「う……」 まただ、またパニック障害。 周りの人間の視線が異様に冷たく感じる。 本当はそんな事ないのだろうがとにかくそう感じて仕方がなかった。 『まもなく練馬〜、練馬に留まります』 ここは本来降りる駅では無い。 しかし今はとにかくこの場から離れたかった。 なので駅に着いた途端急いで電車を降りる。 その際にも数名にぶつかったがそんな事気にしてられなかった。 「ふぅ……はぁはぁ……」 駅の付近は人が多かったので人通りの少ない住宅地にやって来ると自販機を見つけたので水を購入。 そして先ほど病院で処方された頓服薬を飲みパニックを和らげようとした。 「ゴクッ、ぷはっ……」 しかしすぐには治らない、数分経ってから効き始めるためだ。 「ん、はぁっ…?」 ふと近くの一軒家を見ると小学生ほどの子供が自宅に帰って来た様子が伺えた。 「ただいま〜!」 「おかえり、楽しかった?」 仲睦まじそうな家族だ、"ただいま、おかえり"と挨拶をする様子を羨ましそうに見ている快。 「……っ」 そんな羨ましそうな目をする理由は? しかしそんな彼に息つく間もなく次の災いが降り注いだ。 「ポテトいる?」 「いらないですっ」 「えぇ?美味いのに〜」 ガラの悪い男3人組がフライドポテトを片手に女性をナンパしている。女性は明らかに嫌そうだ。 「チラッ……」 その女性は快を見つけると助けて欲しそうに見つめた。 「くっ……」 ヒーローになるチャンスだ。 しかしまだパニックは治まっていない、震える足は彼を動かさなかった。 助けを求める女性と目が合っているのに何もできない。 自分の弱さに腹が立っていると。 「お?何、ジロジロ見てどーしたの?」 不良が快の視線に気付きターゲットが移った。 「え、いや……」 腹が立ったのか快の周りにやって来て囲う。 「ポテト欲しい人?」 「それはねーだろ笑」 嘲笑うかのように快を見つめる不良たち。 全身を寒気と震えが襲う。 「うぅっ……」 しかし自分はヒーローになりたい、こんな所で諦められるか。 チャンスが来たなら証明しろ。 そう思い拳を構えて見せる、とても弱そうに見えたが今の快には精一杯だった。 「お、やる気か?」 すると不良の一人が快の背中から手を回し羽交締めにする。 「あっ……くぅっ」 何とか抵抗しようと足を出して蹴ってみる。 それが余計に不味かったようで。 「蹴ったぞコイツ!」 「そのまま押さえてろよー、おらっ!」 思い切り快の顔面を殴り付けた。 そのまま羽交締めの手は離され地面に倒れてしまう。 「ははっ!」 そして不良たちは嗤いながら動けない快を何度も蹴り付けた。 「無抵抗だぞコイツ笑」 「よし、逃げるぞ!」 ひと通り蹴り飛ばして満足したのか不良たちは走ってその場を去っていった。 「…………」 倒れたまま動かない快。 そこへ先ほどまで不良に絡まれていた女性がやって来る。 「大丈夫ですか⁈」 心配そうに駆け寄り快を起こそうとしてくれる。 しかし今の快の心はそれどころではなかった。 「(助けるどころか逆に心配されるヒーローって……)」 そんな思考が止まらない。 するとまたあの幻聴が聞こえる。 『君は大丈夫、安心して!』 そんな事はない、見て分かるだろう。 幻聴に対しても呆れてしまう快であった。 「大丈夫じゃないです……」 そう呟きながらも自分で立ち上がり快は泥だらけで帰る事にした。 大丈夫じゃないのは心の方なのだ。 「(こんなに苦しいのに"涙が出ない"……)」 彼はいくら辛くても泣かない体質なのである。 過去に一体何があったのだろうか。 ☆ 俯きながら自宅へと戻る。 「……」 一言も喋らない、ただいまも言わなかった。 すると廊下の奥から姉である"美宇/ミウ"の声が聞こえる。 「帰って来たなら言ってよ……」 向こうもおかえりとは言わない、少し気まずそうな空気が流れている。 しかし快の姿を見て驚愕の声をあげた。 「何これ泥だらけじゃん!どうしたの⁈」 先ほど不良たちによって蹴られた時に出来た汚れを見られて心配そうな声をあげる。 「……ヒーローになれなかった」 快がこのように答えると美宇は少し弱くため息を吐いた。 「はぁ、まだそんなこと言ってんの?それで無茶した訳?」 「うん……」 「もう、心配かけるような事しないでよ。本当にさぁ……」 そして仕事の準備をしながら快に着替えを渡す。 「早く着替えちゃって!」 そして仕事に向かおうとした。 「今から仕事?」 「そうなの、今日の人が体調崩しちゃったからヘルプで……」 忙しそうにしながらぼやく。 「ただでさえ休み取れてないし婆ちゃんの介護もあるのにさぁ……」 そのまま玄関の扉を開けた。 「じゃ、行ってくるから」 「あい」 そして美宇が居なくなると快はテレビの前に向かった。 リモコンを手に取りサブスクを開いて憧れのヒーロー番組を点けた。 『大丈夫かい?』 画面には女性を見事に助けるヒーローの姿が映し出されていた。 先ほどの快とは真逆で華麗に悪を倒して女性からも賞賛されている。 「いいなぁ……」 そんな画面越しに誰からも愛されているヒーローを見ながらポツリと呟く快が寂しそうな背中をして座っていた。 つづく『アアァァァアアアァァ……ッ!!』 突如巨人が大きな雄叫びをあげて目覚めた。 噛まれている左足を軸に背中から飛び上がる。『ゼリャァァァッ!!』 そして捻挫して痛いはずの右足で全力の蹴りをバビロンの顔面に決めた。「グゴォッ……⁈」 捻挫の痛みなんて今はどうでもよかった。 アドレナリンが止め処なく放出されているから。『ざっけんな!俺はヒーローにならなきゃいけないんだ!!』 過去への怒りに燃えながら全身に力を込める。『散々辛い思いしてきたのにその分いい思いが出来ないなんて……』 魂を込めて叫ぶ。『割に合わねぇんだよ、バカヤロウ!!!』 そしてバビロンへと突っ込む。 今度は無策ではない。「ゴアァッ!!」 前足を振りかざしてくる攻撃を避けると。『ドゥラァァァッ!!』 人差し指と中指でバビロンの"左目"を突き刺した。「ギャアアアアアアアアアッ!!!!」『フンッ、フンッ!』 グリグリと抉るようにほじくる。 バビロンは想像を絶する痛みに暴れ回る。『フンッ!』 そして指を目から離した後、両手でバビロンの頭を押さえた。『ディイイリャッ!!』 思い切り左膝でバビロンの顎を攻撃した。 骨が砕ける感覚がよく伝わって来る。「ガゴハッ……」『フゥゥゥ……!』 そして巨人はバビロンの尻尾を掴みグルグル振り回す。『ゼリャァァァアアアアッーー!!!』 そのまま思い切り投げ飛ばした。「グゴアァァァッ……」 歌舞伎町の辺りに思い切り衝突し倒れる。 相当なダメージを食らってしまった。『オォォォォ……』 バビロンが倒れている隙に巨人はエネルギーを溜める。 両腕を広げて全身で"十字架"のような形を作る。『ハアアァァァァーーーッ!!!』 そのまま両手を突き出し放たれる十字の波動。 罪という概念を滅する"神の雷"。『ライトニング・レイ!!!』 蒼白の十字の雷が一直線に進みバビロンに衝突。 「グッ、ゲガガッ……」 そのまま大爆発を起こし消滅した。 しかし雷の威力が制御できずに強すぎたのか爆発はどんどん広がっている。『ーーッ』 そしてそのまま巨人自体も大爆発に呑まれた。 新宿の街を爆炎が包む。 巨人は一体どうなったのだろうか。「……っ!!」 近くで見ていた市民たちが絶句しながらその様子を見ていた。 そして爆炎が
今見えているのは両親の姿。 何度も怒った両親に叩かれて来たため目の前のバビロンが彼らに見えたのだ。「何でもっと普通に出来ないの⁈いい子にしてなきゃダメでしょ⁈」「母さんの気持ちを考えろ!お前にも心はあるだろう⁈」 そして何度も叩かれる。 そのうち罵声を浴びせて来る者の姿が少しずつ変化していった。「私だって辛いんだから」 姉である美宇の姿に変わりマウントを取ってくる。「お前なんかもう友達じゃない」 次は瀬川の姿になって絶交を宣言。「ヒーローはもっと選ばれた人がなるんだよ」 そして愛里の姿にもなる。 今の快にとってはキツい一言を浴びせた。『やめろ、やめてくれ……』 どんどん追い詰められて行く快の精神。 そして遂にみんなが一斉に最悪の言葉を発した。「「お前はヒーローになれない」」 その言葉を聞いた途端、快の精神は崩れた気がした。『……そんな』 その時何を思ったのだろう。『…………ウソだ』 無理やり言い聞かせるように否定をする。『………………そんな事ある訳がない』 しかし言葉とは裏腹に声は段々と弱くなって行く。 記憶に映る景色、覚えているのは殆ど辛い記憶ばかりだ。 いい思い出なんて殆ど残っていない。 そんな事があって良いのだろうか。『……ふざけるな、こんな事あっちゃいけない』 自分だけずっと辛い目に遭い続けるなんてそんなの。『理不尽すぎる!!!』 つづく
崩壊し燃え盛る新宿の街。 バビロンが暴れる新宿の街。 そこへ眩い恵みの光が降り注いだ。『オォォォ……』 その光の中から現れたのは巨大な"赤銀の巨人"。「何だアレ…」 逃げ惑う人々は振り返り巨人の出現に圧倒されていた。『セアッ』 その巨人の正体は。『これが、俺の変身……』 赤銀の巨人に変身した快はその変貌した姿、目線の高さに驚いていた。「グゥルルル……」 そこに迫るバビロン。『そっか、俺が戦うのか……』 自分の手を見つめる。 この手で自分がやりたい事、今チャンスがあるのならやってやる。『見てろよ……!』 今まで自分の夢を否定した奴らの顔を思い浮かべて拳を強く握った。 そして。『ハアッ!』 拳を構えて戦闘体勢に入った。『フオッ!』「ゲアァァッ!」 二体の巨大な存在はお互いを目掛けて走り出した。 そのまま勢いよくぶつかり取っ組み合いを始める。『オォォォ……ッ』 悪魔のような顔がすぐ目の前にある。「(良いんだよな……?怪獣だし……!)」 その体勢のまま巨人はバビロンの顔面を右拳で殴った。『ハッ!』「グギャッ……⁈」 拳がバビロンの左頬にめり込む。 体勢が崩れた隙を巨人は見逃さなかった。『ホッ、デリャッ!』 左足で回し蹴りを繰り出しバビロンの腹部を攻撃する。「(イケるぞこれ……!)」 これなら自分もヒーローになれる。 そう思うと嬉しくなってしまい攻撃にも勢いが増す。「ゲアァァッ!!」『オッ……⁈』 しかし蹴り上げて片足立ちになっている所を尻尾で払われ思い切り背中から地面に倒れてしまう。 思ったより大分痛かった。「グゲェェェッ!!」 倒れている巨人に噛みつこうと顔を勢いよく下げる。『グッ、ウゥゥ……ッ!』 何とか手で口を押さえて凌ぐ。 隙だらけの腹部を両足で蹴り上げバビロンを転ばせる事に成功した。「ゴゲッ……⁈」 よろよろと巨人は立ち上がる。『ハァ、ハァ、フンッ……!』 まだだ、まだやれる。 今のは少し油断しただけだ。 そう自分に言い聞かせて構えを取り直した。『セィリャァァッ!!』 そのまま殴りかかる体勢で走り出す。「ギャァァオッ」 しかしバビロンは振り返り尻尾攻撃をして来た。『ウッ⁈』 反応出来ず隣のビルに叩き付けられてしまう。「ガァッ!!」 その隙に噛
「くっ……そぉ……あぁぁぁ!!」 こんなに辛くても涙は出ない。 ただ声を上げるしか。「うわああぁぁん……!」 リクも声を上げて泣いている。 快は今、自分が許せなかった。 英美の気持ちに応えてリクを連れて逃げた理由。 それは"恐怖"。死ぬ事への、夢を失う事への恐怖が快の選択を決めたのだ。 つまりは英美を見捨てて逃げたのと同じ事。 やはり自分はヒーローではない。そう痛感してしまった。 そして英美の言葉を思い出す。『ただ自分に出来る事を見つけてるだけ。』「(そんな事、あるわけないだろ……)」 快が苦しんでいるのは"出来る事が見つからないから"じゃない。「"やりたい事"が出来ないから…辛いんじゃないかぁぁ!!!」 悲痛な叫びが燃える街の真ん中に響く。「くそぉ、こんな時も自分の方が心配だなんて……」 再び死を目の前にしても他人を想えるほど余裕がなかった。 こんな自分、生きてる意味はあるのだろうか。 何故ヒーローである英美が死んで臆病者の自分がのうのうと生き延びている?『大丈夫、君は大丈夫だから!』 こんな時またあの幻聴が聞こえる。「(何が大丈夫だよ、見てわかんねぇのかよ…)」 快の心は完全に折れてしまった。 幻聴の空気を読まないポジティブな言葉に苛立ちを覚える。『だって君は託されたから』 すると幻聴が今までにない"続きの言葉"を語り出した。「……え?」 突然の事に快は理解が追い付かず固まってしまう。『自分には出来ない事、君になら出来ると信じて託した。応えなくていいの?』 理解は追い付いていないが必死に考えて幻聴に対し反応を見せる。「何言ってんだ、彼女に出来なくて俺に出来る事なんてある訳ないだろ……」 泣き叫んでいるリクを見て言う。「現に俺は怖くて逃げたんだ、助けられたかも知れないのに英美さんを置いて……」 するとこんな返事が。『だったら何で一人で逃げなかったの?』 そう言われてハッとする。『君はしっかり意思を汲んでこの子を救ってくれた』 そして次の一言で快は気の重さが少し抜ける事となる。『君はもうヒーローだよ』 肩の重荷が少し軽くなった気がした。 まだ完全に抜けた訳ではないが言ってもらいたかった言葉を初めて言ってもらえたから。「これは……?」 すると瓦礫の中に一つだけ輝く石を見つける。
三人は瓦礫だらけのショッピングモール内を移動していた。「はっ、どこまで……行くの?」「まず南側出口に行こう。そしたら真っ直ぐ怪物と反対方向まで逃げるの。そしたら多分避難して来た人もいっぱいいるだろうから。」「なるほどね……はぁっ……」 英美はリクと手を繋ぎ気遣いまでしている。「大丈夫?疲れてない?」「うん大丈夫」 先程からヒーローらしい行動を散々見せつけて来る英美。きっと彼女は素晴らしい人なのだろう。 しかしヒーローを目指すがなれない快にはどうしてもそれが当て付けのように見えて仕方なかった。 ヒーローな英美とヒーローになれない自分。 今、快の自尊心は今までにないほどボロボロだった。「……っ」 リクも母の死を乗り越えようとしている。 そんな強い二人が前方で手を繋いで歩いている。 まるで自分が置いてかれているようだ。「はぁ、はぁ……待って……っ」「ん、大丈夫?」 そこで快の言葉に気付いた英美が声を掛けて来た。 しかし優しい言葉を言ってくれても嬉しくない。「……何が?はっ……」 「歩き方、変だよ?」「えっ……?」「ちょっと見せて!」 そう言って英美は無理やり快を座らせて右足の様子を見た。「ちょっとコレ!捻挫してるんじゃない⁈」 快の右足首は真っ赤に腫れていた。 まさかさっき転んだ時にやってしまったのか。「大丈夫だよこれくらい……」 何とか対抗しようと強がりを言ってみせる。 しかし。「ダメだよ!……お願い、助けさせて」 急に強い表情になった英美。 その力強い言葉に思わず受け入れてしまう。「大丈夫、何か持ってくるからね」 そう言って英美は近くにあったドラッグストアに走って入っていった。「………」「………」 今この空間には快とリクの2人だけだ。 気まずい沈黙が嫌で快は口を開く。「ねぇ、あのお姉ちゃん好き……?」 単純に気になった。やはり子供はああ言ったヒーローに憧れるものなのか。「うん。だって優しくてカッコいいもん。」「そっか……」 また自尊心が傷ついてしまう。 こんな自分も嫌で仕方がない。 しかし彼女はヒーローらしい行動を取り実際リクから愛されている。 そのような彼女を凄いと認めざるを得なかった。「お姉ちゃんヒーローにならなきゃいけないんだって。自分がみんなを助けなきゃいけない
バビロンが暴れ回る新宿の街。 逃げ惑う人々の中、その群れを掻き分けて反対方向へと走る者が一人。「はぁっ、はぁっ……怖いっ、はっ……!」 持久力は高い方じゃない。しかし彼の使命感によって発生するアドレナリンが彼をどこまでも走らせる。 自分に一体何が出来るかは分からない。だがしかし、ここで動いてこそヒーローというものだろう。「(少しでも……助けられたら……!)」 燃えるビルを追い越し、瓦礫に潰された死体を横切って走る。 焼け野原になった新宿を息を切らして駆け抜ける。「あっ」 しかし彼は選ばれし者ではない。 瓦礫につまずき簡単に転んでしまった。「くぅぅ……」 地面に突っ伏し何も出来ない自分にショックを受ける。 やはり自分にヒーローなんて無理なのだろうか、そう思った時。「大丈夫ですか⁈」 甲高い女性の声が聞こえる。 顔を上げるとそこには自分と同い年くらいの少女と彼女と手を繋ぐ小さい男の子がいた。「ぁ、君……」 何故か一瞬立ち止まるがその後すぐに手を差し伸べる。「ほら、立てる?」 倒れている自分に手を差し伸べてくれる少女。 太陽の光を背に浴びた彼女の姿は、まるで自分がなりたかった"理想のヒーロー"のようだった。 ☆ 手を取り合った3人は近くのショッピングモールの中に避難していた。「私、"勇山英美/イサヤマヒデミ"。よろしくね」「創 快。」「オーケー快ね。そしてこの子はリク君。」「グスッ……」 リクという子供は先程からずっと泣いている。「この子ね、あの怪物の光線で目の前でお母さんを亡くしたの。だから何とか助けてあげたいと思って無理にでも連れて行ってる。」「そっか……」 彼女は凄い、自分には出来なかった"人を助ける事"を平然とやってのけている。 それを目の当たりにした快の心境は少し複雑だった。 その時遠くの方からバビロンの咆哮が聞こえる。 まだ破壊活動を続けているらしい。「ひっ……」 母の事を思い出したのか恐れるリク。「よしよし、大丈夫だからね〜」「ひっく、グスッ……ママぁ〜」 必死に英美が撫でても泣き止む気配はない。 同然だ、母を失ったばかりだから。 快は母を失った時の自分と今のリクを照らし合わせて全く泣けなかった事、それが意味する事にまた複雑な感情を抱いた。「よし、コレ何だ?」 リク